第3回 西千葉「あみっぴぃ」―豊かな「オフライン」を補完する「オンライン」(月刊『広報』連載コラム 「人をつなぐ」地域SNS ~各地の地域SNS活用術)

※このコンテンツは、(財)日本広報協会が発行している月刊『広報』に2008年1月号より地域SNS研究会の庄司昌彦が連載している記事を、日本広報協会のご好意により許可をいただき地域SNS研究会のサイトでも公開するものです。
地域通貨「ピーナッツ」が育てた土壌
地域SNSとひとくちにいっても、運営主体や目的、運営方針などは事例によって異なり、実に多様である。対象とする地域も、県や郡レベルの広いものから町内会や商店街のような狭いものまで、さまざまである。そして、どのような規模においても優れた事例がある。今回は、「町内会や商店街のような狭い地域」を対象とする地域SNSの代表例として、西千葉の地域SNS「あみっぴぃ(http://amippy.jp/)」を紹介する。


図1:西千葉コミュニケーションサイト「あみっぴぃ」画面
amippi


千葉市に、西千葉というJR総武本線の各駅停車だけが停車する駅がある。この西千葉駅を中心とする地域が、この「あみっぴぃ」の対象地域だ。西千葉には千葉大学の本部キャンパスや千葉経済大学があるため学生街の趣があり、またその周辺には戸建の住宅街が広がっている。千葉大学のキャンパス沿いには「ゆりの木通り」が走り、通りを挟んだ反対側には「ゆりの木通り商店街」の商店が数百メートルにわたって軒を連ねている。このゆりの木通りに、「あみっぴぃ」のキーパーソンがたくさんいる。ゆりの木通りに行けば、必ず誰かに会うことができる。
「あみっぴぃ」の特徴のひとつは、このような狭い地域で、商店主や地域住民、学生などさまざまな人々の間に、互いに顔が見える人間関係がしっかりと築かれているという点だ。もちろん、ネット(SNS)の上でも活発なコミュニケーションが行われている。
だが、10年ほど前までこの地域では学生と地域住民の間の交流はそれほど活発ではなかったという。この場所で豊かな人間関係が築かれるようになったのは、地域SNSが開設されるよりも前に、「ピーナッツ」という地域通貨の取組みが行われたことによる。ピーナッツは、都市計画コンサルタントの村山和彦氏と、商店会長の海保眞氏、そして佐久間聡子氏、NPO法人千葉まちづくりサポートセンターなどによって2000年に生まれた。ピーナッツは、海保氏が経営する美容院など三店舗でのみ使えるというところから始まり、現在も参加者を増やしている(2008年2月現在1500名以上が参加)。2003年には、地域通貨の利用を通じてまちづくりの活動に取り組む「ピーナッツクラブ」が結成された。このクラブでは、清掃活動やコンサート、オリジナル商品の開発、さまざまなワークショップの開催や商店街の「第三土曜市」への参加など活発な地域活動を行っている。


図2:ゆりの木通り商店街の店舗
yurinoki

地域SNS「あみっぴぃ」を運営するNPO法人TRYWARP(トライワープ:虎岩雅明代表)の活動も、ピーナッツクラブと密接に結びついている。地域の人々に学生がパソコンの使い方を教える、という事業が柱であるこのNPO(当初は千葉大の学生サークル)は、2003年にピーナッツを家賃として事務所を借り始め、2004年にはピーナッツの電子決済システムの設計・制作を受託した。商店会の海保氏はTRYWARPのパソコン講習会を受講し、ピーナッツクラブのブログを書くようになった。
オフラインへのこだわり
地域SNS「あみっぴぃ」は2006年2月にTRYWARPによって開設され、2008年2月現在、2000人が参加している。「あみっぴぃ」という名前は、地域通貨ピーナッツの利用者がつながりの証として使う「アミーゴ」という言葉と「ピーナッツ」の合成である。あみっぴぃは、TRYWARPが行っている地域の人々のためのパソコン講習やサポート事業を補完し、活動を通じてできた地域の人々と学生のつながりを発展させることをひとつの目的にしている。もちろん、ピーナッツクラブの活動とも連動しており、「西千葉」で世代を超えたコミュニケーションを活性化することも目的にしている。TRYWARPの虎岩雅明氏は、パソコン講習・サポートの事業やピーナッツクラブの活動のようなオフラインの町づくり活動が先にあり、オンライン(SNS)はその補完をする道具である、と明確に語っている。この「オフライン」への強い意識も、あみっぴぃの大きな特徴である。
ユーザーの活動も、ネット上にとどまっていない。あるユーザーの「がんばれ!ニシチバ!キャンペーン」という呼びかけがきっかけになり、「がんばれ!ニシチバ!」というロゴ入りのステッカーが作られた。また胸に大きく「西千葉」と描かれたTシャツを作成して販売したユーザーもいる。さらに、千葉大学出身で「シンガーソングライター&西千葉のアイドル」の松尾貴臣氏を中心に「西千葉のアイドル祭り」と題した音楽イベントが開催され、「あみっぴぃ」とも連動して盛り上がっている。このイベントは、地元商店街のメンバーが開発した化粧品の「公式イメージソング」を松尾氏が作成して歌うなど、「西千葉の大学・学生・企業、そして西千葉のミュージシャンがコラボレートした「made in 西千葉」の音楽とアートの祭典」である。

図3:「西千葉のアイドル祭りvol.6」の様子。松尾氏が「西千葉Tシャツ」を着ている
matsuo

ここまで述べてきたように、「あみっぴぃ」では、地域通貨の取組みが育んだ人間関係の土壌の上にSNSというツールが重なり、さらに人のつながりを強く豊かなものにしている。そして、オフラインの活動とオンラインの活動を強く結びつけることによって相乗効果を生み出すようになっている。これも、地域SNSの特徴であるといえるだろう。またSNSの運営とパソコンの講習・サポートを組み合わせたり、分かりやすいデザインや言葉遣いをしたりすることで、シニア世代がSNSに参加するハードルを下げ、世代を超えたコミュニケーションに結び付けているという点も、優れた運営上の工夫である。