レポート「文字以外によるコミュニケーション」(第11回 地域SNS全国フォーラムin 熊谷分科会)

去る11月23日に行われた「第11回地域SNS全国フォーラムin 熊谷」の中で「文字以外によるコミュニケーション」をテーマに第6分科会が開催されました。同分科会のオーガナイザーは地域SNS研究会事務局の庄司昌彦が担当しました。
この分科会の問題意識として「文字以外のコミュニケーションを用いることで、文章の読み書きが苦手な人ともつながれる可能性がある」ということが挙げられます。地域SNSは、地域の「同じ関心を持つ人」同士をつなぐことでは力を発揮しますが、これとは別に、災害時のコミュニケーションやいわゆる無縁社会問題で指摘されている地域のすべての人々をどうつなぐか、すべての人々にどう情報を伝えるか、という問題も存在します。
また地域SNSの利用者の年齢・性別には明らかに偏りがあり、女性や若者、聴覚や視覚などにハンディキャップを抱えている人、外国人やITに疎い人が地域の実態よりも少ないという状況があります。地域の人全員とのつながりやコミュニケーションを確保するには、文字を使わないコミュニケーションも含めて活用を考えて行く必要があります。

■障害をもつ子どもたちと絵カードによるコミュニケーション
庄司による問題意識の説明の後、横浜の地域SNS「ハマっち!」ユーザーでもある、インフォ・ラウンジLCCの肥田野正輝氏が「障害をもつ子どもたちと絵カードによるコミュニケーション」という論題で登壇しました。

現在、インフォ・ラウンジLCCでは株式会社たすく社と共同でスマートフォン用アプリ「たすく生活支援アプリシリーズ」を開発しています。これは発達障害や学習障害を抱えた子どもたちに向けたもので、絵が書かれたカード(絵カード)を利用することで五感を活用したコミュニケーションの実現を支援するものです。発達障害の人の多くは、言語を用いたコミュニケーションや理解に困難を抱えているためこうしたアプリが重要になるのだと肥田野氏は説明しました。
発達障害・学習障害の人々は、一度にいくつものタスクを扱うことを苦手とします。そこでスケジュールを管理するためのアナログツールとして、マジックテープでカードをフォルダに並べて貼り付けていくというものが開発されましたが、持ち歩き辛いという大きな欠点がありました。それをデジタル化することで解決したのがiPad用アプリ「たすくスケジュール」です。同アプリでは今までアナログだったものをデジタル化しただけに留まらず、カードの並びに階層性を持たせることや、自作絵カードの使用、作業にどの程度時間をかけるべきかの明確化などデジタルならではの機能が実装されています。さらにスケジュール管理だけに留まらず、自分が何をしたいのかを他者に伝えるためのコミュニケーションツールとしても同アプリは使用可能です。この他にも絵カードを使用した文章作成アプリ「たすくコミュニケーション」も紹介されました。
発表の最後に肥田野氏は、コミュニケーションが不得手な健常者、高次機能障害者、認知症患者など潜在的なユーザーは多いのではないかと考えていることや、現在流行しているLINEのようなイラストを使用したコミュニケーションツールには潜在的な需要があるのではないかと自身の考えを述べ、今後はアプリ内に、絵カードを売買・共有するためのプラットフォーム機能を追加し、より多くのユーザーを取り込みたいと展望を語りました。
■浦安ハーブプロジェクト/未来介護プロジェクト
次に「浦安ハーブプロジェクト/未来介護プロジェクト」について小黒信也氏による発表が行われました。小黒氏は長年に渡って介護事業に取り組んで来ましたが、現在は千葉県浦安市の空き地を利用したハーブ栽培プロジェクトを行なっています。このプロジェクトは、未利用地の有効活用、農業の生き残り、地方と都市の協働を目指として行われており、栽培・加工が容易で高付加価値、癒し効果や認知症などの予防効果が期待され、地元商店と競合しないことからハーブが栽培されています。

ハーブ畑という場には人によって異なる意味があるとして、高齢者、母親、子供などのそれぞれの立場にとっての畑の意味が説明されました。特に高齢者にとっては「仕事や役割の場」となることが期待され、外に出たくなる動機付けとして働き、結果的に引きこもりによる寝たきりを防ぐのではないかという介護予防的観点からの必要性が強調されました。
小黒氏は「地縁」に基づく人的ネットワークを作ることの重要さを述べ、そうしたネットワークは災害時においても有効だろうと述べました。そして、ネットワーク作りのためにハーブ畑で導入しているルールについての紹介が行われました。とりわけ、挨拶はコミュニケーションの基本だとして大切さが強調され、挨拶を大切にした結果、地元住民からお祭りに参加しないかと誘われるようになったエピソードを紹介し「態度」もひとつのコミュニケーション手段であると指摘しました。
■静岡県掛川市地域SNS:掛川魅力発信動画事業
NPO法人スローライフ掛川の河住雅子氏は、静岡県掛川市での「掛川レコード(掛川魅力発信動画事業)」について紹介しました。

スローライフ掛川は、地域SNS「e-じゃん掛川」の運営を、2009年から2年半に渡って行い、その間にアクティブユーザー増加など一定の成功を収めました。しかし2012年3月より市による運営へと体制が移行され現在はSNS運営から離れています。そんな折に市からの助成金を得て新たに始めたのが今回紹介された掛川魅力発信動画事業「カケレコ」です。
カケレコではYouTubeと「e-じゃん掛川」を活用し、掛川の魅力を伝える動画を発信しています。さらに動画、ブログ記事、記事へのコメントという3つの活動をクロスさせ、さらにクイズなど視聴者参加型の動画作りも行っています。動画の内容としては、市民記者とともに市内の観光コースを案内するものや、同NPOが管理する文化財「竹の丸」の魅力紹介、市内の商店紹介などが挙げられます。
投稿した動画の中には大量のアクセスを稼ぐものもあり、そうした動画へのアクセス解析を行った結果、掛川に興味を持つ人達が検索して動画を見に来てくれていることがわかり、自分たちの取り組みはある程度成功しているのではないかと河住氏は語りました。
同時に、少しでも興味を持ってくれた人がいれば声をかけたり、動画編集や取材の仕方についてレクチャーを行なうなど、カケレコを通じて人材育成やリアルでのつながりも模索しており、そうして関わってくれる人を増やすことが今後の運営を考える上で大事なのだと河住氏は締めくくりました。
河住氏の発表に対して分科会参加者から「市からの助成金をもらいながら、観光協会に所属していない商店を紹介しても大丈夫なのか?」という質問が投げかけられましたが、それに対し河住氏は「あくまで市民が市民のために情報を発信しているというスタンスだと」回答しました。

■地域SNS「山武SNS」
最後に、千葉県山武市の地域SNS「山武SNS」からNPO法人山武IT推進協会の小島妃佐子氏が同SNSとそこで取り組まれている住民ディレクター活動について発表を行いました。

山武SNSは兵庫県の地域SNS「ひょこむ」からの暖簾分けで2009年に誕生しました。ユーザー数は約260人で、全体としてシニア層が多く、第一次産業に従事する人も多いことが特徴です。
同SNSで行われている住民ディレクター活動は、取材を通してコミュニケーションを図る取り組みのことで、山武地域では住民が地域のことをより理解するために動画が作成されています。小島氏は「動画作りの過程が地域作りであり、動画は副産物でしかない」と主張します。そして「むしろ取材の過程が大事であり、取材を通じて地域の人々が自身の地域のことを知り愛着がわくような地域作りを行なっている」と語りました。そのような目的と同時に、生活者の視点から取材と番組制作を行うことで、地域作りに必要な企画力や人材の養成も行われています。
小島氏によれば、動画を作っている人の平均年齢は70歳でインターネットが苦手な人も多いものの、彼らは取材や番組作りを通して「自分はここにいる」ということを発信できる喜びを感じていると説明しました。
小島氏は住民ディレクターのキーワードとして「番組作りを通じて、地域の人的ネットワークを作り、維持することが重要だ」と語りました。それは住民ディレクター活動を支えるネットワークは生活者が自分たちの目線で取材することで作られるからです。また、普段からの知り合いや喋りやすい人が取材を行うことが大事だとも指摘しました。そうすることで、暮らし方そのものやインタビューされる人の素の姿や本音が表れるのです。
最後に小島氏は、今後の取り組みとしてコミュニティFM開設の計画を挙げ、本、コミュニティFM、地域SNS、住民ディレクター、Twitterなどをメディアミックス的に駆使して情報を発信していきたいと語りました。