新しい都市政策「シェアリングシティ・ソウル」

sharing_seoul-618c4b52b5cf061d8ee4ea1645b7081d

自動車を買わず、オフィスも借りず、本や道具は必要な時だけ借りる。このように所有するのではなく「シェア」することで代替する「シェアリング・エコノミー」に注目が集まっています。
なかでも韓国のソウル市はその最先端の都市になっています。

シェアリング・エコノミーとは、たとえば個人が保有する使われていない資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は使われていない資産の活用による収入、借主は所有することなく必要な時だけ利用ができるというメリットがあります。貸し借りを通して緩やかなコミュニティの形成も期待されます。2000年代後半以降、アメリカ・サンフランシスコで市民の自発的な活動や新たなビジネスとして広まりました。

●シェアリングシティ・ソウルの概要とソウル市の政策

それを世界で初めて大都市の政策とした「シェアリングシティ・ソウル」が始まったのは、市民団体の代表等を務めてきたパク・ウォンスン氏がソウル市長に就いてからです。

ソウル市は人口1000万人を超える大都市で、交通渋滞、環境問題、社会保障など様々な都市問題を抱えています。2008年の世界金融危機以降の税収減で、これらの対策が必要とされるようになりました。

パク市長は2012年、「シェアリングシティ・ソウル推進計画」を発表し、市役所にソーシャル・イノベーション局を設置、「ソウル特別市共有促進条例」を制定しました。この条例は「シェアリング」とは何かを定義し、今後の方針を示したものです。ソウル市はこの条例に基づいてシェアリング・エコノミーを担う企業に財政支援をし、市内の各区を通じて市民団体等にも財政支援やアドバイスを行ってきました。

また、文化活動等に関する市民団体「Creative Commons Korea」がこれに協力し、シェアリングに関するオンラインプラットフォーム「ShareHUB」を運営しています。このサイトでは、市と市民・企業の間の仲介や、シェアリング・エコノミーに関する広報・情報発信、カンファレンスの運営等をしています。

ソウル市は政策の重点対象を3段階に分けて、市民に根付かせようとしてきました。2013年は企業、2014年は自治体、2015年は学校・教育と定め、それぞれに対してシェアリング・エコノミーの啓発・援助のための政策を実行しました。

2013年はカーシェアリングやホームシェアリングなどを行う「シェアリング企業」の起業や進出を重点的にサポートしました。64社に対し、合計7000万円の財政支援を行っています。ShareHUBも新規参入する企業に対するコンサルティングや説明会等を開催しました。

2014年は、市内25区の自治体に補助金を出し、各区は民間団体のシェアの取り組みをサポートし、市民の生活に密着したサービスを始めました。その中から、非営利のシェアリング本棚などの事業が生まれています。

2015年は市内の中学校・高校でシェアリング・エコノミーに関する教育が導入されました。社会科や経済に関する授業で家庭の不要なものを持ち寄って実際に交換をしてみたり、シェアリング企業の経営者に話を聞く機会をもったりしたそうです。経済に関するサークル活動等では、生徒が校内履きや傘などを持って来るのを忘れた生徒に貸し出すサービスを始めとたいう事例もあります。

これらの重点政策は1年ごとで終わったわけではなく、現在に至るまで続けられています。ソウル市自身が行っている取り組みとしては、後述のカーシェアリングにおける駐車場や公共施設の貸し出しのほか、公共Wi-Fiの設置、市の行政に関するデータのオープンデータ化などがあります。

市には国際的なアドバイザリー・グループと、国内のアドバイザリー・グループがあり、後者はシェアリング企業の財政支援先の審議や経営のコンサルティングをするものと、シェアリングの障害となる条例や国の法律を調査するものがあります。

●シェアリング・エコノミーによる効果

このように、ソウル市は多方面でシェアリング・エコノミー政策を展開してきましたが、これらはどのように機能し、市と市民・企業に利益をもたらしているのでしょうか。期待される社会的価値には以下のようなものがあります。

第一に、使われていないモノやスキルの活用による経済効果と新しい産業・雇用の創出があります。カーシェアリングや会議室・公共施設のシェアがこれにあたります。

ソウル市では5つの民間のカーシェアリング企業がソウル市の「ナヌムカー」の認証を受けています。一般利用者は事前に登録をし、市内に点在する利用地点に行き、スマートフォンで車を開けるだけでいつでも必要な時だけ車を利用することができます。利用地点は公共施設の駐車場にあるほか、集合住宅の駐車場にも設けるようインセンティブが与えられています。また、ソウル市役所は職員が用いる公用車を買い替えずにシェアリングカーを利用するよう転換を進めています。また、市が所有する施設の部屋なども、空いている時間にはインターネット予約によって市民が利用できるようにもしています。

これらによって、カーシェアリングという新しい産業と雇用が創出され、ソウル市は空いている土地や部屋を活用して収入を得ることができ、市民は車を所有するコストを省くことができます。また、市が利用地点設置の際に公有地を貸す代わりに、事業者は障害者用の割引料金を設定することで、ビジネスコストの削減と社会保障を両立しています。このように、活用されていなかった資産が市の収入源となり、一方で企業は新しいビジネスチャンスを得て、雇用を生み出し、それによって市民は従来より安く便利に自動車やオフィスを利用できるのです。

第二に、過剰な消費を抑えることによる環境効果があります。

例えば、カーシェアリングが普及すると、市内を走る自動車の台数が減り、駐車場のスペースが節約でき、交通渋滞や排気ガスも減ります。すぐに使わなくなってしまう子供服や子供用品、めったに使わない工具類などもコミュニティで共有できれば無駄な出費とゴミが減らせます。ソウル市内でも比較的所得の低い地域である恩平(ウンピョン)区で市民が運営する「恩平物品共有センター」は、韓国で伝統的に農作業時の労働力交換として行われていた「プマシ」を真似て、地域コミュニティ内でのモノやサービスのシェアを進めています。

第三に、シェアを通じた信頼関係の創出と、コミュニティの再生が期待されます。

恩平物品共有センターの会員は「プマシ通帳」を持ち、自分がモノやサービスを提供すると地域通貨「門(ムン)」が対価として得られ、今度はそれを使って自分が必要とするものを得ることができます。この現代版プマシは恩平区以外でも、子育てや高齢者の見守りグループなどとして様々なかたちで行われています。そのほかにも、先輩の社会人が不要になったスーツを応援メッセージ付きで若い求職者に貸し出す「オープン・クローゼット」は、厳しい雇用・経済状況に苦しむ若者を励ましています。市民が本を持ち寄って貸しあう「国民図書館本棚」、関心を共有する人を募りともに会話と食事を楽しむフードシェア「チッパブ」など、モノやサービスのシェアを通して、様々な人とつながる経験も共有できるのです。

 

6

出典:ShareHUB

●今後の展望

今後の目標は、2018年までにこれらのシェアリング企業を、韓国を代表するレベルに育て、また市内各区が地域ごとの取り組みを自律的に行えるようにサポートしていくことです。
これらの取り組みは韓国政府も期待しており、政府はシェアリング・エコノミーを国家の新成長戦略とする方針を発表しています。また、大田、大邱、光州などの大都市も、それぞれに即した形でのシェアリング・エコノミー政策を始めています。

さらにヨーロッパやアメリカからも関心を集め、視察団が訪れています。すでにオランダのアムステルダムやイタリアのミラノもシェアリングシティを宣言しました。ソウル市はシェアリングシティとして世界にアピールするため、今年の11月にはシェアリング・エコノミーに関する博覧会も開催する予定です。

日本では東京23区内などの一部の地域で自転車のシェアリングが始まったり、コインパーキング最大手の「タイムズ」などがカーシェアリング事業を進めたりしていますが、まだ利用できる範囲は非常に限定的です。お隣の韓国・ソウルでの取り組みの行方が注目されます。

●参考URL

「共有都市(Sharing City)・ソウル」プロジェクト(ソウル市公式ホームページ(日本語)
「次なるシェアリングシティを目指すソウル」(国連大学ウェブマガジン「Our World」、2013年08月16日)「シェアリングシティ・ソウル」について、さらに詳しく解説しています。

「ShareHUB」
ソウルのシェアリング・エコノミー政策のプラットフォーム。これまでの政策についての報告書なども読むことができます(英語)。

「Sharing City Seoul: a Model for the World」(Shareable、2014年6月3日)
アメリカを中心としたシェアリングに関するプラットフォーム「Shareable」によるソウル市の紹介の記事です。

「The Tale of Two Sharing Cities, Part Two」(Sharable、2014年5月1日)
Shareableの設立者であり、ソウル市ソーシャル・イノベーション局の国際アドバイザリー・グループのメンバーでもあるニール・ゴレンフローのソウル視察レポート。