「独立系」の運用から情報発信、社会動向の分析へ 地域SNS研究の変遷

2004年に登場したOrkutから広がり始め、mixi、gree、Twitter、facebook、LINE、Instagramなど次々と新しいサービスが登場したソーシャルメディアの流行は現在も進行中ですが、地域SNSにおいてはさまざまな変化がありました。
以前の記事でお知らせした地域SNS関連文献リストは、そうした地域SNSの変遷の中で公開されてきた2005年以降の約270件の論文・記事等をリストアップしたものです。今回は、これらから見える研究動向を探ります。

●文献数からみる変遷

リストアップされた論文・記事等を年度別でグラフ化すると、以下のようになります。

地域SNS論文数変化

文献数からみると、2009年に一度ピークがあり、2011年に突出した後、緩やかに減少傾向にあることがわかります。 これらの内容から見えてくる地域SNSとその研究の変遷は、2011年を境に大きく2つの時期に分けられます。

●研究動向の変遷

地域SNS研究動向大

 

前期はオープンソースのプログラム等を用いた「独立系」の地域内SNSが流行した時期です。
熊本県八代市の「ごろっとやっちろ」から始まった地域SNSは、2005年の末から総務省が実施した実証実験を経て広がりはじめ、最終的には30ほどの自治体がLASDEC(地方自治情報センター)の枠組みの中で地域SNSの実証実験を行いました。

また、OpenPNEに代表されるオープンソースのプログラムを活用し、地域SNSは全体で、2010年に550ヶ所を超えるまでになりました。

この頃の論文は「地域SNSとはなにか、地域情報化の中でどのように位置づけられるか」といった紹介や展望のものが多いようです。2008年~2009年頃からは論点や研究方法が多様化し、これらの成果が論文化されています。
こうした独立系の地域内SNSは、比較的閉じたオンラインコミュニティで、現実のご近所づきあいをネット上にも広げたようなものであり、当時最盛期だったmixiに近いものでした。そしてこのような地域SNSの数は2010年にピークを迎えた後、急速に減少していきました。
しかし2011年、重要な変化が起こります。
それは東日本大震災の発生です。また、この頃にスマートフォンの急速な普及がありました。

2010年頃から、豪雨災害や岩手・宮城内陸地震といった大規模災害の際に、ローカルな情報伝達にTwitterやfacebookなどのソーシャルメディアが活躍したことが一部で注目されていましたが、東日本大震災発生時には、その効果が広く一般社会にも知られることになりました。
地域の給水場所や計画停電の時間などの情報が拡散され、多くの人が節電や募金といった行動を起こす契機にもなりました。

そして震災前後とほぼ同時期にスマートフォンが一般的に普及し、Twitterやfacebookなど、より多くの人が参加する比較的オープンなSNSを使う人が増えるようになりました。これ以降、地域SNSによるコミュニケーションはこうしたグローバルなソーシャルメディア上に舞台を移します。
そして地方自治体のSNS活用も、独立系SNSで地域の個人間コミュニケーションを支援するのではなく、グローバルでオープンなSNSの情報拡散力を活用し、広く地域の情報を発信する方向へ転換したといえます。こうした転換の中で、双方向コミュニケーションやコミュニティ醸成という目的は衰退していきました。
震災直後の地域SNS研究は「そのときソーシャルメディアがどのように役立ったか」という検証が中心でしたが、その後は復興も含めた行政の取り組みの一つとして取り上げられるようになりました。

また、ソーシャルメディア化は多数の一般市民が発する膨大な情報を蓄積することを可能にしました。 これによって、例えばTwitterや写真共有SNSなどでどの地域のどこがよく訪れられているか、どのような情報にニーズがあるのかなどがわかるようになりました。こうしたビッグデータを活用した研究も始まり、地域のコミュニティの枠を超えた、「地域とSNS」の動態についての研究が増えてきているようです。

●誰が書いているのか

このように、2011年を境として、独立系地域内SNSを用いたコミュニティ醸成とグローバルなSNSを用いた情報発信・拡散という2つの潮流があり、いずれも研究が多様化していったことがわかります。

リストアップされているものは、ほとんどが学術誌の論文(学会発表の梗概を含む)や業界誌の記事が中心で、必ずしもすべてをカバーしているとは言えませんが、これらの書き手は情報処理・通信技術などに関する情報工学系の論文が最も多いようです。
次いで多いのが、まちづくりや地域活性化を主題とした政策科学系の論文や、行政職員や地方金融機関向けの実務的な記事です。
そして、次第にコミュニケーション、メディア、観光など利活用実態に焦点を当てた学際的な観点から地域SNSが取り上げられるようになってきています。

技術の進歩や流行の移り変わりが著しい約10年間の地域SNS研究の変遷を見てきました。 今後は少子高齢化などさらに多様な分野の課題解決を支えるインフラのひとつとして、あるいは社会動向を把握する手段のひとつとして、地域のSNS的コミュニケーションを参照する研究が増えていくのではないかと考えられます。