国際大学(南魚沼市)にて第3回サテライトオフィス誘致戦略研究会を開催

 9月7日、国際大学GLOCOM、国際大学、南魚沼市との合同研究会である「サテライトオフィス誘致戦略研究会」の第3回目を開催しました。今回は「南魚沼におけるIT企業誘致戦略について」をテーマに、入居企業と《実際にサテライトオフィスに入居してみてどうだったか?》を対談で深掘りし、具体的な企画立案まで行いました。

◆活動実績

・第1回開催レポートはこちら
・第2回開催レポートはこちら

 

◆参加団体一覧(敬称略)

株式会社エム・ビー・エー、Noom Japan株式会社、株式会社プライムスタイル、株式会社ICO Japan、新潟大学地域医療教育センター・魚沼基幹病院、南魚沼市役所、国際大学

◆タイムテーブル

0. ごあいさつ(ジェイ・ラジャケセラ:国際大学副学長)
1. 問題提起(庄司昌彦:国際大学GLOCOM)
2.福島県会津若松市の視察報告(小林亮平氏:南魚沼市商工観光課)
3. 入居企業へのインタビュー(株式会社エム・ビー・エー、Noom Japan株式会社、株式会社プライムスタイル、株式会社ICO Japan、国際大学)
4.ワークショップ
5.総括

◆開催報告

1.問題提起(庄司昌彦:国際大学GLOCOM)

 これまで参照してきた先進事例(徳島県神山町、和歌山県白浜町、福島県会津若松市)に共通していたのは、「生活の質」と「仕事」を磨くことが小さな知識産業の集積を作ることに繋がる、ということでした。つまり、どの地域でも皆、すごく楽しそうにやっていることや、ビジネスとして《儲かる》という観点より、その地域で《暮らす》観点を重要視していることが印象的でした。今やITは、社会の隅々にまで浸透していて、必ずしも都市でやる必要性は少なくなっています。むしろ地方で取り組んだ方がいいこともあり、小規模だからこそ官民が連携しやすく、低コストで意思決定が早いというメリットもあります。

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 福島県会津若松市の事例では、人々のゆるい集まりの中で、組み合わせを変えながら次々と新しいことにチャレンジしています。こうした環境は「リビングラボ」とも呼ばれ、企業が実験的な企画を持ち込み、開発プロセスに地元の人を共創的に巻き込んでいくのが特徴です。どのような地域が官民連携や知識産業集積の形成に向いているのでしょうか。それは「次々とチャレンジが生まれる地域」だと言えるのではないでしょうか。

2. 福島県会津若松市の視察報告(小林亮平氏:南魚沼市商工観光課)

 福島県会津若松市は、人口は約12万人、観光地としても人気のまちです。その一方で、会津大学卒業生の9割が県外に出てしまうこと、古民家や空き家が多いことが課題となっています。そのため、産業振興を含めた「地域活力の向上」を図るため、「スマートシティ会津若松構想(=ICTを活用して生活を便利にすること)」に取り組んでいます。また、人事異動の仕組みを生かした津若松市役所職員のIT化にも積極的です。市役所へ足を運ぶと、タッチパネル式の情報ボードがあったり、タブレットで各種証明書の発行ができたりとIT化が進んでいます。

 サテライトオフィス事業を比較してみると、会津若松市には、病院を改装したサテライトオフィスがあり、移転を検討している企業の試行の場として提供されています。一定期間入居してみて、気に入った場合には2019年3月完成予定の、新装されたICTオフィスビルへの入居を案内しています。会津若松市では、ICTに特化した会津大学がハブとしての役割を担っているように、この事例を参考に南魚沼市も国際大学を生かしたサテライトオフィス事業を検討していくことができそうです。

 会津若松市で頻繁に開催されている「オープンカフェ」では、地域でモチベーションが高い人々を集め、様々なテーマで議論を重ねています。そこで、南魚沼市でもプラットフォームを構築するために「プチオープンカフェ」を実施し、今後もその展開を企画中です。

3. 入居企業へのインタビュー(株式会社エム・ビー・エー、Noom Japan株式会社、株式会社プライムスタイル、株式会社ICO Japan、国際大学)

 庄司GLOCOM研究員と各入居企業で《実際にサテライトオフィスに入居してみてどうだったか?》をテーマに対談しました。以下、対談の概要です。

・Noom Japan株式会社
実際に入居してみると国際大学の学生らのパーティーに誘われて参加したりと、交流が多い。卒業後南魚沼で働いている国際大学卒業生もいて、交流の場を設けてくれたのだ。
業務に必要な支援として、テレアポがあるので、周囲の入居企業の迷惑にならないよう、電話できる場所が欲しいと考えている。本社とは普段、電話、ハングアウト、ズームなどを使って会議しているが、交通費の負担などを考えると、なかなか頻繁には行き来できない。しかし、サテライトオフィスで様々な企業の人と交流ができるので、そこで多様な価値観を身につけることができると期待する。

・株式会社エム・ビー・エー
もともと英語が苦手だったが、国際大学の学生の方から話しかけてもらえることが多く、英会話を頑張っている。また、今回の入居をきっかけに海外の図書館情報を知ることができ、海外展開の可能性が出てきたことは非常にプラスになった。入居企業同士のコラボについては、事業だけでなく「どのように遠隔会議を行なっているのか」などコミュニケーションスキルの部分を共有できればよいのでは。
また、業務の物質的支援としてプリンターが使える環境が必要だ。業界が図書館関係なので未だにFAXを使う顧客も多く、ツールが顧客側の情報リテラシーレベルに左右されることもあるとは、気づかなかった。

・株式会社プライムスタイル
長野県でもサテライトオフィスを設けており、地元採用に注力している。会社側としては業務経験のある人を採用したいので、採用に至らないことが多い。しかし、それでも応募数があるのは大きな成果だ。ベトナムでも事業展開しているので、もともと日本人以外の人を雇うことに抵抗はなく、先日国際大学側にもインド出身の留学生など紹介してもらったところだ。しかし、留学生は東京に行きたいというニーズが根強く、その辺りのマッチングも課題だ。

・株式会社ICO Japan
医療・介護の分野では、現実と政策が必ずしも一致していない。仕事として地域に実際に入って行く時には参入衝撃もかなり高い。
ベトナムからの留学生の就職支援をしているので、やはり他分野に就職したい学生や「東京で働きたい」という希望が多い。日本の地方も面白い、ということをどのようにアピールしていくかが課題だ。また、日本の場合ワーキングホリデーや農業体験のような制度が少ないと感じている。いきなり介護で呼び込むのではなく、ゲストハウスなどまずは入り口を明るくするのはどうだろうか。また、北海道や長野など、雪のある場所で海外からの集客に成功している地域を参考にしてみたい。

・国際大学
お試しサテライトオフィスが始まってまだ数ヶ月だが、実際に4社も入居していただけたので影響力があった。思いがけず、ローカルな企業だけでなく多様な企業に来ていただけて驚いた。この数ヶ月は学生の入れ替わりの時期だったので、教員や学生とのコラボが今後の課題だ。南魚沼市にとっても新しいチャレンジになるので、今後も地元企業とのつながりを強化するなど支援をしていきたい。

4. ワークショップ

 2020年に「IT知識産業集積を形成すること」、「ウェルビーイングを高めること」、「様々なチャレンジを生み出す環境づくり」を目標とし、これから何に取り組んでいくのかを年単位で書き出すワークを行いました。

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 課題としてピックアップされたのは、前回話題に上がった「ジョセササイズ」と「オープンカフェ」です。ジョセササイズは、どのようにインセンティブを獲得していくか、どのように地域資源を活用していくかという点が論点となりました。また、国際大学の学生とのコラボレーションを増やすためにも「オープンカフェ」は効果的です。世界料理を提供する、英会話教室を開くなど、国際大学の特徴を生かしたイベントの開催ができそうです。

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 3回にわたって開催したサテライトオフィス誘致戦略研究会では、日本各地の先行事例を紹介しながら、入居企業や地元の方々とともに「地方とIT」について議論を深めてきました。秋になり国際大学の新学期も始まったことで、今後のコラボレーションが楽しみです。