「地域ICTサミット2017」授賞式及びシンポジウムが開催されました

 2018年3月9日、東京ビッグサイトにて「地域ICTサミット2017」が開催されました。
行われた表彰式、講演、パネルディスカッションについてレポートします。


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(1)「ICT地域活性化大賞2017」表彰式

 「ICT地域活性化大賞」とは、少子高齢化や災害対応など、地域が抱える様々な課題をICT(情報通信技術)を用いて解決し、地域活性化に貢献する様々な優れた取り組みを募集、表彰するものです。今年度は応募総数102件のうち、11件が大賞、優秀賞、奨励賞などを受賞しました。
総務省:受賞案件の発表


(2)特別講演「私は創造的でありたい」 若宮 正子氏

 若宮正子氏は、82歳にして、2017年にスマホ向けアプリ「hinadan」をリリースしたことで話題の人物です。2018年2月にはニューヨーク国連本部でデジタル社会と高齢者に関するイベントにおいてスピーチを行いました。

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(以下、講演)

 私は、高校卒業後、定年まで銀行に勤務し、パソコンを購入したのは退職後のことでした。母の介護をしつつ、シニア向けコミュニティサイトの「メロウ倶楽部」で、同世代との交流を楽しんでいました。まさにパソコンは、私に翼を与えてくれたのです。母が亡くなった後は、自宅でささやかなパソコン教室を始め、パソコンが使えることの楽しさを同世代に伝えるようになりました。そこで私は、高齢者でも楽しめるよう、Excelのセルを塗りつぶしていくことで模様や絵を描く「エクセルアート」を考案しました。さらに、単色だけでなくグラデーションやパターンを用いて、立体的な絵や油絵のタッチにも挑戦しました。また、それらのデザインをカバンやうちわにプリントして作品を作りました。次に私は、「世界にたった1つのペンダント」を作りました。制作にはフリーソフトの「123D Design」と、工房の3Dプリンターを使いました。材料費はたったの540円でした。

 やがて私は、スマホやタブレットを使うシニアは増えている一方、シニアが楽しめるアプリが無いことに疑問を抱くようになりました。何度も若い人にアプリ制作を依頼しましたが、うまくいかず、結局自分で作る方が早いと思い立ちました。プログラミングの知識は、自宅のある神奈川県と講師のいる宮城県を遠隔で繋いで教えてもらいました。また、友人に頼んでアイコンにしやすいお雛様やお内裏様のイラストデザインを作ってもらいました。こうしてリリースされた「hinadan」には、予想外の反響がありました。スマホに触ったことのないハイシニアからの感想や、親子三世代でゲームを楽しんだという感想をもらいました。また、ゆっくりしたゲームなので障がいを持つ子どもにも楽しんでもらえそうだという意見も寄せられました。普通、素人の作ったアプリは、1000件ダウンロードされれば大成功だと言われています。ところが、hinadanは8万件のダウンロードを記録しました。その後CNNに取り上げられ、瞬く間に世界中のメディアに拡散されたのです。

 私はApple社に招待を受け、本社のあるシリコンバレーへ渡りました。そこで「Worldwide Developers Conference 2017」に参加し、CEOのクック氏とも対面することができました。今、hinadanは英語版、中国語版でのリリースに向けて開発が進んでいます。これからはアプリの多言語化や、体の不自由な人や高齢者も楽しめるアプリ、日本の伝統を後世に伝えていけるようなアプリを開発していきたいと考えています。

 現代では、人工知能がどんどん発展していきます。これからの時代、私たちは創造力と人間力を身につけることが重要なのではないでしょうか。なぜなら、創造することこそ、人工知能にはできない営みだからです。そこで最大の課題となるのは、教育でしょう。現代は詰め込み式の教育になっています。自分で見つけ、調べ、判断して糧にしていく教育にしていくのはどうでしょうか。

 2018年2月、私はニューヨークの国連本部へ招かれました。現地に着くまで、多くの人が善意で私の送迎や案内を買って出てくれました。そのおかげで、私の国連でのスピーチは実現したと言えるでしょう。この場を借りて、改めて感謝を申し上げます。


(3)受賞団体によるプレゼンテーション

 大賞1団体、優秀賞4団体、行政効率化賞1団体が、それぞれプレゼンテーションを行いました。そのうち3団体を抜粋して紹介します。

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株式会社AsMama「子育てシェア」(大賞)
子の送迎・託児を支援する母親の空き時間マッチングサービス。登録料・手数料ゼロで、万が一に備えて全利用者に保険が適用されます。なりすましを防ぎ、地域の顔見知り同士が登録し合うので、子どもにとっても安心のシステムです。

北海道森町・森のくまさんズ「ひぐまっぷ」(優秀賞)(写真参照)
ひぐまの目撃情報を地図上にまとめたオープンデータベース。これまで市役所に寄せられてきた目撃情報の統一化が追いつかなかったところ、クラウド上で統一された地図に情報をまとめていくことで、データ管理の低コスト化や精度向上を実現しました。今後はLINEbotの活用や、他地域への展開を視野に入れていきます。

株式会社フィッシュパス「遊漁券オンライン販売システム」(優秀賞)
遊漁券をオンラインでいつでも購入できるサービス。釣り人の位置確認と連動させ、遊漁券未購入者を防ぎます。また、地元の観光情報などを表示させて利益アップも図ります。


(4)パネルディスカッション
   モデレーター:関口 和一氏(日本経済新聞社 編集委員)

 パネルディスカッションでは、会場からオンラインで自由に質問を受け付け、登壇者がそれらに回答していく形式をとりました。最も多く寄せられたのは、トラブルやリスクの回避、事業運営のコスト、導入時の抵抗勢力についての質問でした。

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 まずAsmamaの子育てシェアについて、顔見知り同士であるがゆえに、母親間でトラブルが起きた場合はどうするのかという質問がありました。依頼に対して断りづらくならないよう、Asmamaが利用者の間に入るようなシステムになっており、子どもの面倒を見てもらったら「お礼」として500円を支払うルールになっています。もし相談があれば、全国にいる「地域コミュニティリーダー」に話が行くようになっており、各地域の自立自走型コミュニティ形成を目指しています。

 北海道天塩町のライドシェア事例には、バスやタクシーなど既存業界との折り合いや白タク回避について質問があがりました。元々稚内市と天塩町の間に競合相手が無く導入しやすかった一方、バス・タクシー業界とはなるべく多く交流を持つようにしているとのことでした。またシェアリング・エコノミー協会認可団体であるnottecoと連携しているため、プラットフォームは利用料無料かつ安全で、利用者も実費の範囲内で負担する仕組みになっています。

 西予市の市役所改革では、市民から理解を得られるよう努力したという話があがりました。まず建物のリフォームやタブレットの導入にかかった費用を一般歳入から出すので、発注は地域内の業者に依頼しました。結果的に、ペーパーレス化のおかげで年間1600万円削減の成果が出たので、4年間で元が取れる計算です。総合受付には交代で常に職員の誰かがいるようにしており、談話スペースを設けたことも好評だったそうです。

 最後に、今後の課題について質問がありました。北海道森町のひぐまっぷは、他地域の鳥獣被害や不審者の情報発信への展開を目指していると答えました。フィッシュパスは、漁業組合の高齢化を最大の課題の1つとしてあげました。なお会場からは、フィッシュパスとひぐまっぷとで連携ができるのではないか、という意見があがりました。福井県・石川県の「タブレット型心電図」は、大規模災害時の活用を目指していると話していました。

 審査員の一人を務めた川島宏一筑波大学教授は、ディスカッションの総括として、分野を越えて連携していくことの重要性を再確認した上で、各受賞案件について、こうして自分たちのプラットフォームにたくさんの人を巻き込んでいくこと自体が価値だと祝福しました。そしてこれからも情報はなるべくきれいに、長く、丁寧に蓄積して行くことを意識すると良いと締めくくりました。