第5回 兵庫県「ひょこむ」 ―産官学民に広がる強い絆(月刊『広報』連載コラム 「人をつなぐ」地域SNS ~各地の地域SNS活用術)

地域SNSの代表例
前回までは、広い地域で、大規模でゆるやかなつながりを作り情報流通を重視する地域SNSと、商店街などの狭い地域で、しっかりとした人間関係やオフラインの活動との連携を重視する地域SNSを紹介した。今回は、両方の特徴、すなわち広い地域を対象としつつ、しっかりとした人間関係やさまざまなオフライン活動を実現している兵庫県の「ひょこむ」を紹介する。
「ひょこむ」は、「地域のソーシャルキャピタル(社会関係資本)の創造」を目的として、姫路市のインターネットサービスプロバイダー、インフォミーム株式会社が運営している。社長であり「ひょこむ」を主宰している和崎宏氏は、全国各地で地域SNSの効果や可能性を熱心に説いている、いわば地域SNSを代表する存在だ。
活発なオフライン活動と「強い紐帯」
「ひょこむ」は、オンラインのコミュニケーションも、オフラインの活動もともに活発だ。特に、ユーザーによる自発的なオフラインの活動がたくさん起こっている。
たとえば、ユーザーの発案とデザインによって実際の車の外装を「ひょこむ」のキャラクターなどで飾った「ひょこむカー」が生まれたり、地産地消で料理をしようというオフ会から、姫路の郷土料理を使った新名物「姫路おでんコロッケ」が生まれたりしている。
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その他、ひょこむの使い方講習会や、山歩き、ダイエット、バーベキュー、芸術活動、異業種交流会など多数のイベントや活動がユーザーによって自発的に行われている。単なる飲み会やお食事会ではない、さまざまなアクションによって、地域の人々のつながりが深まったり、新たなつながりが生まれたりしている。
「ひょこむ」は、2008年4月現在で約3800人が参加する比較的規模の大きな地域SNSであるが、参加するためのルールは厳格で、ユーザーからの招待がなければ参加できない招待制をとっている。またAさんがBさんをひょこむに招待したらAさんはBさんの「後見人」として助や協力をする、という「後見人制度」も採用している。このような運営方針には、運営者の「人のつながり」へのこだわりが現れている。
運営者だけでなく、ユーザーの方も比較的「強い紐帯」を志向していることがうかがわれる。例えば、「ひょこむ」で書かれる日記やそのコメントは、他の地域と比べると長く内容の濃いものが多い。また官(兵庫県)や民(NPO等)、学(大学関係者等)が運営者と協力関係を築いているほか、ひょこむに参加している一般のユーザーの中にも、みんなで共にひょこむを作っているという感覚や信頼感を共有している人々が少なくないように見える。
兵庫県庁の活用
兵庫県庁が地域SNSを積極的に活用しているということも、大きな特徴だ。「ひょこむ」には、県知事をはじめとする県庁職員約640人が参加している。これだけの数の行政職員が参加している地域ネットコミュニティは他に存在しないだろう。それだけではなく、2007年度からは県の事業として、地域SNSを県民の地域づくり活動のツールや県政情報の発信の場などに活用している。
この兵庫県庁の取り組みの中心人物は総務省出身の牧慎太郎企画管理部長だ。牧氏は、総務省時代に、地域SNSにいち早く注目し、2005年に行われた総務省の実証実験を推進した人である。
兵庫県では、地域SNS(ひょこむ)の活用が県の事業であるため、業務関連のことについては勤務時間中でも閲覧したり、実名を名乗った上で書き込んだりすることができる。例えば県が運営している「コウノトリバーチャル博物館」コミュニティでは、県が野生復帰を支援しているコウノトリの放鳥や産卵の状況が県から投稿され、ユーザーが多数のコメントを寄せている。このような県の事業に関連したコミュニティは、一部の県民だけへの情報提供で終わらないよう、ユーザーではない人も閲覧できるように公開されている。牧氏によれば県のコミュニティは、従来のネットコミュニティでたびたび見られた行政と住民の対立的な雰囲気はなく、逆に「行政職員が身近になった」という声も聞かれるそうだ。県職員と県民の日常的な信頼関係の構築はある程度成功しているといえるだろう。
ひょこむに見る地域SNSの将来
ひょこむの中心的なユーザーからは、産官学民などの立場の違いや組織の壁を超えて、日ごろから協力関係や信頼感などの「ソーシャルキャピタル」を醸成しておくことへの強い意識が感じられる。その背景には1995年の阪神淡路大震災の際に地域の人々が自発的に助け合った経験があると和崎氏は語っているが、確かに兵庫の人々は、災害の経験を共有していることによって他の地域よりも地域の協力関係の重要性を強く認識しているのかもしれない。
兵庫県内にはひょこむの他に、三田市の「さんでぃ」や佐用町の「さよっち」など、市町を対象地域とする地域SNSが誕生している。これらはひょこむと人的に連携し、またシステム的な連携もし始めている。今後は、兵庫県全域を対象とするひょこむと、より狭い地域を対象とするSNSが、人々の活動範囲や目的などに応じて縦横に連携しながら発展していくようだ。兵庫県のモデルは他の地域にも参考になると考えられる。
その他にもひょこむでは、SNS内で流通する地域通貨ポイント「ひょこぽ」や、地域の商店が並ぶオンラインショッピングモール「ひょこむモール」など、地域の人々のコミュニケーションや経済取引をさらに促し充実させるようなことにも取り組んでいる。また地域SNS内で生成される地域情報を、その地域を通過する自動車のカーナビへ配信したり、インターネット接続された地上デジタルTVに配信したりするなど、SNSに参加していない人や地域の外部の人々へも向けて流通させるような取り組みも行っている。
ひょこむが醸成するソーシャルキャピタルの上に、どのような経済社会システムが出来上がっていくのか。今後の発展が楽しみである。
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