第11回 会津「sicon(シコン)」 ―ブリッジングと「学び」のコミュニティ(月刊『広報』連載コラム 「人をつなぐ」地域SNS ~各地の地域SNS活用術)

ボンディングとブリッジング
10月16・17日に、「第3回地域SNS全国フォーラムin佐賀」が開催された。メインセッションでは「地域SNSを斬る」と題し、地域SNSに深くかかわっていない専門家による、客観的な議論が展開された。その中で、地域SNSのコミュニケーションは結束を強める「ボンディング型」が多く、新しい関係の橋渡しをする「ブリッジング型」が不足しているのではないか、という指摘があった。
たしかに、多くの地域SNSでは利用者間のつながり(紐帯)を強化・緊密化し、一体感や安心感、信頼感を醸成するようなボンディングが重視されている。顕名で閉鎖的なコミュニケーションや、活発に開催されるさまざまなオフラインの活動は、体験や話題の共有を通じて利用者の結束を強化する方向に作用しているといえる。
しかし閉鎖的につながりを強化するだけでは、利用者の同質性が強まったり、新しい話題が減ってコミュニケーションが停滞したり、外部から孤立したりしてしまう。全国フォーラムでの指摘のように、外部の新しい話題や人とのつながりをSNSの内部へ持ち込み、橋渡しをすること(ブリッジング)も必要で、ボンディングとブリッジングのバランスを取ることが重要だと考えられる。
そこで今回は、ボンディングとブリッジングについて興味深い運営方針や取り組みがみられる、福島県会津地域の「sicon(シコン:http://sicon.jp)」を紹介したい。
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「会津にコミットする1000人」のブリッジング
会津は福島県の西部に位置する広大な地域である。中心都市である会津若松市には福島県が設置した情報系の大学である会津大学が存在し、若者が県内外から集まっている。siconを運営している(株)デザイニウムの前田諭志氏も、県外から会津大学へ進学し、会津でITベンチャーを興した。しかし会津地域全体としては、過疎と高齢化が進み、温泉地などでは観光客も減少している。
siconという名称は、会津の人々の精神を表す「士魂」という言葉と「connect(つなぐ)」から合成されたもので、「会津の魂をつなぐネットワーク」を意味している。前田氏によると、会津の人々は一般に「地域愛は人一倍強い」が「頑固で、他の人と足並みを揃えたり情報を共有したりすることが苦手」だという。そのような中でsiconは、行動力があり地域の核となる人々、同じ興味や夢・目的を持つ人と応援しあっていこうと考えている人々をつなぎ、小さな課題解決や目的の達成を重ねながら、少しずつ会津を変えていこうとしている。つながっていなかった人をつなごうとしているという意味ではブリッジング的である。
またsiconの利用者になると、たくさんの人から「友達申請」のメッセージが届いたり、何人かの中心的なユーザーから頻繁に「友達紹介」のメッセージが届くようになったりする。これはsiconのユーザーたちが人脈の橋渡し(ブリッジング)をしようとしているものだといえる。会ったことがない人と友達になることに抵抗感がないわけではないが、紹介に応じて友達を増やしていくと、SNSの中で新しい話題や発見に出会う機会が増えるのも確かで、登録しても誰とも友達になれないSNSより何倍も面白いと感じられる。したがってこのブリッジング行為は、SNSの価値を高めることに貢献しているといえるだろう。
また一方で前田氏はsiconについて、「会津が好きで会津にコミットしていきたい人が1000人参加してくれればいい」ということも述べている。これはsiconでは参加者の数やコミュニケーションの量よりも質を重視していることを表しており、目的なくユーザーを増やすのではなく、会津で何かをしたいと考えている人をつなぎたいというこのSNSの原点をよく表している。単純に薄く広く「弱いつながりを」を広げていこうとするのではなく、限られた人々のつながりを緊密化すること(ボンディング)にも意識が向いているといえる。
勉強会と地域SNS
siconには、もう一つ興味深い取り組みがある。それは、中心的なユーザーの一人である塩田恵介氏が、自身の経営する奥会津の柳津温泉「花ホテル滝のや」で開催している「花ホテル講演会」だ。この勉強会は郷土の歴史や文化、経済、観光、IT、マーケティングなどのテーマについて、研究者や専門家、経営者・起業家などさまざまな講演者を招いて行われている。地元の人が話す場合もあれば、東京や仙台などから講演者を招待することもある。もともとこの勉強会はsiconが生まれる以前、2001年から行われており、開催の回数は約140回にものぼっている。
塩田氏はこの勉強会の開催告知から事前の意見交換、生中継、記録や事後の議論といった一連のサイクルに、メール、ウェブページ、SNS(siconのコミュニティ)、動画配信システム、チャットなどの情報技術を最大限活用している。特にSNSに関しては、この勉強会や懇親会がオフ会の役割も果たしているが、柳津温泉まで来られない人も、動画中継を見ながらチャットで遠隔参加して他のユーザーと時間を共有することができる。さらに勉強会の後には講演者もsiconに招待されて、たくさんのユーザーと「友達」になっている。
筆者が講演をした際にも、20-30人ほどの参加者が現地に集まり、同時に数十人が動画中継でオンライン参加していた。また筆者と一部の参加者は懇親会の後、深夜まで議論を続け、そのまま花ホテルに宿泊した。そしてその後はsiconで交流を続けている。
このように花ホテル講演会は、体験を共有し、つながりを強化するボンディングと、人脈を広げるブリッジングの双方の機能を持っている。
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地域における「学び」のコミュニティが地域SNSと連携している事例は他の地域にも存在する。東京都渋谷区の「XSHIBUYA(クロスシブヤ)」では主なターゲットである「クリエイター」のための勉強会や交流会が毎週定期的に行っている。また西千葉の「あみっぴぃ」も、パソコン教室やサポートの事業と連携しており、花ホテル講演会と共通点がある。このような「学び」と地域SNSの関係についてはほとんど研究されていないが、地域SNSの人的なコミュニティが、友人間の相互評価や人的ネットワークの形成などの面で協調学習に好影響を与えているといえるだろう。
柳津温泉のような地方の小さなまちづくり活動が、遠隔地の専門家とつながりを作り、それを維持発展させていくための仕掛けとして、この「勉強会と地域SNS」の組み合わせが果たしている役割は大きいように思われる。このモデルは、他の地方のSNSの運営にも参考になるのではないだろうか。