第12回 パリ市「Peuplade(ププラード)」 ―ランデブーと隣人祭り(1)(月刊『広報』連載コラム 「人をつなぐ」地域SNS ~各地の地域SNS活用術)

自治体との連携でユーザーが急増
SNSを使って地域の人々のつながりを強化したり、新しいつながりを作ったりしようという取組みは海外にも存在する。たとえばフランスでは、Peuplade(ププラード:http://www.peuplade.fr)、Ma-Residonce.fr(マーレジデンス:http://www.ma-residence.fr/)、VOISINEO(ヴォイジネオ:http://www.voisineo.com/)といった近所づきあいを促進するSNSサイトが存在している。
そのような事例の中から今回と次回は、筆者が実際に現地調査を行ったフランスのPeupladeを紹介する 。
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Les Ingénieurs Sociaux(ソーシャルエンジニア)社が運営しているPeupladeは、フランスのパリ市やグルノーブル市などを対象とする地域SNSで、2008年10月現在、約16万人が参加している(パリ市の人口は約217万人、グルノーブル市は約15万人)。
Peupladeは、フランスの地域SNSの中ではもっとも歴史がある。開発のきっかけは2001年の夏にまでさかのぼる。ある日、若手の社会学者でインターネット上のコミュニケーションにも強い関心を持っていたNathan Stern氏が、自分の住むパリ市17区のSauffroyという通りの名前を検索してみたところ、近所に住んでいる人がインターネット上で履歴書を公開しているのを見つけた。そして「会ってみないか」と連絡を取ってみたところ意気投合し、食事をしたり一緒に出かけたりするような友人関係になったという。彼はこのような、人と人が「実際に出会う(ランデブー)」体験をより多くの人と分かち合いたいと考え、2002年にディスカッションスペースやメッセージング、セルフポートレートといった機能をもつPeupladeの最初のバージョンの提供を始めた。
当初はSauffroy通りだけが対象地域であったが2004年にはPeupladeの趣旨に賛同したパリ17区役所のサポートを受けて対象を17区全体に拡大し、ユーザー数も約5500人に達した。
さらに2006年9月からはパリ市役所がPeupladeとパートナーシップを組んだ。Peupladeは対象地域をパリ市全域へと拡大し、市からのお知らせをサイト内に掲載するようになった。一方パリ市は、市長が記者会見で支援を明言し、1200枚のポスターを市内各所に掲示して宣伝を行った。これによってPeupladeはさまざまなマスメディアに取り上げられるようになり、45日間で4万人ものユーザーが参加するサイトへと急成長した。現在でもパリ市が無料で提供している公衆無線LANにアクセスすると、トップページでPeupladeへのリンクが表示されるなど、パートナーシップ関係は続いている。
 パリ市は、Peupladeに対して金銭的な支援はしていないが、意義や目的に賛同し、主にユーザーをサイトに誘導するという面でさまざまな形で協力を行っている。このパートナーシップは、民間の地域SNSと地方自治体の協力関係の在り方として日本の関係者にも参考になるのではないだろうか。
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運営者のStern氏

人が出合い、アクションを起こすための機能
 Peupladeには重要な機能が3つある。いずれも、Peupladeの運営コンセプトを反映した興味深い機能である。
 一つめは、「ランデブー」の約束機能だ。Peupladeにおいてランデブーとはユーザー同士が自発的に企画する「オフ会」のようなものだが、日本の地域SNSで行われているオフ会よりももっと気軽なものだ。たとえば「私は○月○日にコンサートへ行くけど、だれか一緒に行きませんか」という呼びかけをして仲間を募ったり、ユーザー同士が会って食事やお茶をするときに「来たい人は来てもいいですよ」と呼びかけたりするものも立派なランデブーである。もちろん、しっかり企画されたイベントもたくさんあるが、例示したような参加者が一人や二人でも開催される小さなイベントがたくさん掲載されているところが興味深い。この機能について運営者のStern氏は、「リアルな関係を作るのがPeupladeの役目であり、この機能はバーチャルからリアルに入る滑り台のようにユーザーを後押しするものだ」と表現している。
 二つめは、「アイディア」を掲載する機能だ。自分の持っているアイディアを気軽に投稿し、賛同者と一緒に相談しながら実際のアクションに結び付けていく。日本の地域SNSでも「コミュニティ」の書き込みをきっかけとする行動はしばしば起きているが、それをひとつの機能として取り出し、さまざまな「アイディア」を一覧できるように表示するところが大きな工夫である。
三つ目は、ユーザー間の距離を表示する機能である。これはサイト上でユーザーの名前(ハンドル名)が掲載される際には、必ずそのユーザーと自分との間の物理的な距離が表示されるというものだ。各ユーザーが自分のプロフィールを登録するときに、地図上で自分が居る場所のおおよその位置を登録してもらうことによって実現している。例えばあるユーザーが、別のユーザーに興味をもった場合、二人の間の距離がたった数百メートルであったりすると、ネット上でメッセージの交換をするよりも「実際に会いませんか」ということになりやすい。もちろんこのようなサービスにはリスクが伴うので、自分の場所を正確には明かしたくない人などは、実際の場所とは少し違う場所を登録する。
 Peupladeは、同じ通りに住む人とネットを通じてリアルな友人になったという原体験に根差し、ネット上のコミュニケーションを促進するだけではなく、現実社会での「出会い(ランデブー)」や協力行動を促すことを目的としている。その目的を実現するために設計されたこれらの機能がPeupladeの特徴となっている。
地域SNSでのコミュニケーションがきっかけとなって生まれる具体的なアクションの内容は、日本の地域SNSと似ている。Peupleadeで生まれたエピソードにはたとえば、100人以上のユーザーが家賃を分担して皆が気軽に集まれる場所を借りたという話や、ネット上でアイディアを出し合い住民が地域を舞台にした短編映画を製作したという話、また一人暮らしの高齢者の家を交代で見回りをするようになったという話などがある。
次回はPeupladeが誕生したパリ17区から生まれた「隣人祭り」を紹介する。これは近所に住む人々同士が料理を持ち寄って食卓を囲み交流を深めるというもので、世界29の国と地域の800万人もの人々が参加するイベントである。そしてこの取り組みはPeupladeの運営とも関わりがある。そこでPeupladeや隣人祭りの発展の経緯や課題などを日本の状況と比較することで、地域SNSの今後を展望することにしたい。