官民が連携して行政サービスのコスト削減に取り組む「ソーシャルインパクトボンド」

Photo credit: Joe Shlabotnik via Foter.com / CC BY

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これまで地域や社会の課題を解決するためにICT企業や個人が関わる「クラウドファンディング」についてお伝えしてきました。今回は地域課題を解決するための行政サービスのコスト削減と民間企業が投資事業が同時にできる新しい取り組みである「ソーシャルインパクトボンド」についてご紹介します。

「ソーシャルインパクトボンド」とは、行政、投資家、NPOなどの非営利団体、評価機関が連携して行うものです。これまでの行政がおこなってきた事業は、その成功、失敗にかかわらず費用が発生していました。「ソーシャルインパクトボンド」は、従来行政が取り組んできた課題の解決に、投資家から資金を集めた非営利団体や企業が新たな方法によって予防的に取り組みます。予め定められた基準を超える成果が得られた場合、削減できた行政コストの一部を事業費と成果報酬として行政が投資家に支払います。一方で、事業が一定の成果を達成しなかった場合には行政から投資家へ報酬は支払われず、結果的に投資家が投資した資金は実施団体への寄付となります。

日本財団より引用

日本財団より引用

一番初めの「ソーシャルインパクトボンド」は2010年にイギリスで行われました。再犯率の高いピーターボロ刑務所では、再犯者による刑務所のコストを減らすためにソーシャルインパクトボンドを計画しました。刑期を経て社会に出た元受刑者が、社会の中で生活していけるよう支援し、再度犯罪行為を行って裁判や刑期中にかかるコストが発生しないようにするのが狙いです。もちろん、犯罪者が減ることでより住みやすい社会になるという社会的なメリットも期待できるでしょう。非営利団体は投資家からの資金をもとに受刑者の社会復帰プログラム作成し、社会復帰後に再び犯罪を行わないように仕向けました。結果的に再犯率を10%減らすことができれば成功とみなし、投資家は成果報酬を獲得できることになっていました。結果的には再犯率は8.4%の削減にとどまり、10%とまでは行きませんでしたが、再犯率が低下したのは評価されるべきことです。また、今回の場合は投資家が投資した資金は2016年中にはその元本が戻ってくる見込みとなっています。

「Peterborough Social Impact Bond reduces reoffending by 8.4%; investors on course for payment in 2016」
http://www.socialfinance.org.uk/peterborough-social-impact-bond-reduces-reoffending-by-8-4-investors-on-course-for-payment-in-2016/

「トビー・エクルズ: 投資で社会変革を | TED Talk Subtitles and Transcript | TED.com」
https://www.ted.com/talks/toby_eccles_invest_in_social_change/transcript?language=ja

ソーシャルインパクトボンドは、イギリスの他にもアメリカやオーストラリアをはじめ世界9カ国で実施されています。

日本は将来的に人口減により税収が減り、財政赤字がすすんで行政サービスに回すことのできる予算も今まで以上に厳しくなることが予想されます。そういった意味でソーシャルインパクトボンドは日本でも無関係ではありません。

G8インパクト投資タスクフォース日本国内諮問委員会(事務局:日本財団)の資料によると、もし日本でソーシャルインパクトボンドが導入された場合、「就労支援」「介護予防」「児童養護」の社会課題について合計で6,000億円以上の公的コスト削減効果が期待できるというシミュレーション結果があります。そして日本でも2015年に最初のソーシャルインパクトボンドが実施されました。

「G8 インパクト投資タスクフォース 日本国内諮問委員会」
http://impactinvestment.jp/doc/sib.pdf

日本で最初のソーシャルインパクトボンドは、2015年4月に始まった横須賀市の特別養子縁組推進に関する事業でした。

日本において、生みの親がなんらかの事情で育てることのできない子供は約4万人おり、その約85%が施設で暮らしているとのことです。その一方で、養子縁組を希望する人や里親を希望する人は一万人いるそうです。しかしそのマッチングは必ずしもうまくいっているとはいえず、海外の主要国に比べると施設で暮らす子供の割合は極めて高い状況にあります。

「日本初“ソーシャル・インパクト・ボンド”パイロット事業 | 日本財団」
http://www.nippon-foundation.or.jp/news/pr/2015/40.html

子供4人が18歳になるまで横須賀市内の施設などで過ごすと横須賀市は約3,500万円(人件費などの固定費の流動費のみで国からの助成も除く金額)の財政支出を続けなければなりません。しかし、4人が特別養子縁組できれば、そこで必要になる約1,900万円(人件費、研修費、カウンセリング費、交通費など)を差し引いても1,630万円の財政支出を節約できます。

そこで一般社団法人ベアホープが特別養子縁組に関するマッチングや裁判所への手続きなどを行い、2015年中に4人の特別養子縁組を目指しました。

なお、この事業はパイロット事業ということで、実際には事業が成功しても横須賀市から投資家の立ち位置にある日本財団へは報酬は払われません。

日本では他にも、ソーシャルインパクトボンドとして2015年7月に福岡市で介護保険・医療費低減のために認知症予防事業をおこなったり、同じく7月に尼崎市で生活保護の費用を低減するために積極的な求職活動ができていない状況にある人への就労支援事業を行っています。

ソーシャルインパクトボンドは何をもって「成果」とし、それがどこまで達成すればその事業を成功とみなすのかの評価基準を適切に設定することが重要となってきます。ケースごとに正しく評価をして、次回の取り組みにきちんとつなげていく必要があるでしょう。

この取り組みは日本ではまだはじまったばかりで、まだ結果がはっきりと分かる段階ではありません。地域の活性化にも使える新たな仕組みとして、行政にも社会にも投資家にもメリットが期待できるこの動きにこれからも注目していきたいものです。

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