「Pokémon GO」が地域社会へ与える影響

Photo credit: edowoo via Foter.com / CC BY-SA

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前回は携帯電話やスマートフォン向けに配信されている位置情報を使ったゲームについて、それらが社会に与えた影響について事例を紹介しました。今回は、7月22日に日本でも配信が開始された位置情報を使うゲームである「Pokémon GO」について、国内外の地域社会はどうとらえているのか、事例を紹介していきます。

「Pokémon GO」は、位置情報を使ったスマートフォン用ゲーム「Ingress」を開発したNiantic社が開発したゲームで、任天堂の人気ゲーム「ポケットモンスター」のキャラクターが登場します。アプリを起動すると、プレイヤーが所持する端末の位置情報等をもとに様々なキャラクターが登場し、それを捕獲、収集することができます。また、特定の現実世界の建物と紐づけられた「ジム」にて他人のキャラクターと戦わせることもできます。公園など特定の場所に行くと、ゲーム上で使えるアイテムを無料で手に入れられる「ポケストップ」があちこちにあります。

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2016年7月6日にアメリカやイギリスで配信され、日本では7月22日に配信が開始されました。配信が開始されてから世界中で話題となり、人が集まるためのきっかけとして活かせないかと期待している人がいる一方で、場所によっては禁止を訴える議論もあります。

「Pokémon GO」を肯定的にとらえ、人を集めるためのきっかけに活用する例

鳥取県 鳥取砂丘
日本で「Pokémon GO」が公開されて3日後にあたる7月25日に、鳥取県が鳥取砂丘を「鳥取砂丘スナホ・ゲーム解放区」とすることを宣言し、観光客の誘致につなげようとしています。また鳥取県ポケモンGOポータルサイト「とっとりGO」を開設し、プレイヤーが鳥取砂丘を観光するにあたって役立つ情報をまとめています。

「とっとりGO-鳥取県ポケモンGOポータルサイト-/とりネット/鳥取県公式サイト 」
http://www.pref.tottori.lg.jp/tottorigo/

Jタウンネットによると、以前は一番目立つ砂丘の丘へ一直線に向かう観光客が多かったものの、「Pokémon GO」が登場して以降はポケストップがちらばっているため、砂丘の様々な場所をくまなく歩く人が増え、砂丘の動植物に興味を示す人も増えたという効果があったそうです。

「ポケモンGO規制論の裏で…「解放区」鳥取県では、想像以上の観光効果が起きていた!(全文表示) – コラム – Jタウンネット 東京都」
http://j-town.net/tokyo/column/gotochicolumn/230190.html?p=all

山形県米沢市 小野川温泉

小野川温泉では、「Pokémon GO」を集客に活かそうと、様々な取り組みをしています。参加店舗で独自に作成したガイドを配布するほか、「Pokémon GO」の画面提示で入浴料金の割引、急速充電サービス、新たに商品化したラーメンの販売などを行い、温泉街全体で「Pokémon GO」を活用しようという動きが伺えます。また、参加は有料ながら「Pokémon GO」と地域の施設や特産品を結びつけた特別イベントも開催されるようです。

「山形・米沢の小野川温泉、ポケモンGOで観光集客  :日本経済新聞」
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO05672720U6A800C1L01000/

「ポケモンGOで小野川温泉へ特設ページ」
http://www.onogawa.jp/pagepm/pagepm.html

被災地4県(岩手県、宮城県、福島県、熊本県)

8月10日、「Pokémon GO」の開発元であるNiantic社と被災地4県が観光施策をコラボレーションして行うことを明らかにしました。具体的な施策や実施時期はまだ未定とのことですが、観光復興の推進を目的として、誘客、地域経済の活性化、観光客と地元住民の交流促進、被災地住民同士の交流促進を図る施策になるとのことです。

事業イメージの例としては、ポケストップやジムの追加、周遊ルートマップの作成、「Pokémon GO」と被災沿岸部地域を結ぶ関連イベントの実施などが挙げられています。

「Pokémon GOと東北3県・熊本県がコラボ、観光復興の取り組みへ – ケータイ Watch」
http://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/1014668.html

京都府、京都市

前述の被災地4県に引き続き、8月12日にはNiantic社と京都府と京都市が提携に向けて協議を行いました。この協議では、「Pokémon GO」を観光振興に活かそうとするもので、ゲームを使った共同イベントの開催などを模索していくとのことです。

「Pokémon GO」を京都の歴史や文化を学ぶ機会にしたり、伝統産業の振興につなげたりすることが考えられており、月内に連携のための専門チームを立ち上げるとのことです。

ポケモンGOで観光振興 府・京都市が運営会社と協議:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASJ8D551DJ8DPLZB00J.html

また、国内だけではなく海外においても、「Pokémon GO」を呼び水に観光客に来てもらおうと様々な施策が行われているようです。

ニュージーランド

ニュージーランド政府観光局は、「Pokémon GO」そのものとは直接は関係ないながらも「レアなポケモンに遭遇しそうなニュージーランドの絶景スポット」の写真を掲載しています。

実際に「Pokémon GO」のゲームに直接かかわるような施策はしていませんが、ウェブページに掲載されたピカチュウが合成されている美しい写真を見ることで、今まで知らなかったニュージーランドの魅力に気づき、実際に観光に行きたくなるかもしれません。

「ポケモンGO。レアなポケモンに遭遇しそうなニュージーランドの絶景スポット – Tourism New Zealand Media」
http://media.newzealand.com/ja-jp/story-ideas/no-escape-for-pokemon-in-new-zealands-natural-bea/

スイス バーゼル

スイスのバーゼルでは、「Explore Basel with Pokémon GO」と掲げた観光PR用ウェブサイトを制作しています。ポケモンのキャラクターを写真と合成して配置しながら、バーゼルにある飲食や観光地などのリンクを貼っており、前述の「とっとりGO」のような観光ポータルサイトとして作用しています。

「Pokémon | Basel 」
https://www.basel.com/en/Pokemon

サイトには「ポケモンGOリベンジ」として、ゲームとは逆にピカチュウの着ぐるみを着た人がモンスターボールを人間に当ててまわるという動画が掲載されています。公開から1週間ほどしか経っていませんが、すでに333万回以上再生されており、大きな人気となっています。動画の面白さはもちろんですが、それと同時にバーゼルのランドマークや街並みを紹介するものになっていることにも注目したいところです。

また「Pokémon GO Festival」と題して、特別なイベントも予定されています。詳細は不明ですが、こうしたイベントがあることで人々が交流するきっかけが生じるでしょう。

アメリカ アイダホ大学

地域社会とのかかわりとはすこし話がずれますが、ねとらぼによると、アメリカのアイダホ大学はフィジカルアクティビティに「Pokémon GO」を活用する講座をはじめることを明らかにしました。

「米・アイダホ大学が「ポケモンGO」を授業に取り入れると発表 「学生はピカチュウやプリンを探してキャンパスをさまようだろう」 – ねとらぼ」
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1607/31/news034.html

記事の中で、コースの担当講師は「Pokémon GO」について、「集団での行動を敬遠していた人々に、外に出て動いて他のユーザーと知り合うことを奨励するアプリ」と評価しています。

 「Pokémon GO」を否定的にとらえ、禁止する例

全ての人々が、「Pokémon GO」を肯定的にとらえているわけではありません。歩きスマホを助長するおそれがある、場所として「Pokémon GO」をプレイすることはふさわしくない、などといった理由により「Pokémon GO」のプレイを禁止し、すでに設置されている「ポケストップ」を削除するという動きもあります。

すでに出雲大社、根来寺、靖国神社をはじめとした寺社仏閣、特定の公園、高崎市の図書館、美術館、学校、市庁舎といった156施設などで禁止されています。

見つけたら警察に通報? 「ポケモンGO」を禁止通告した寺が炎上 – ライブドアニュース http://news.livedoor.com/article/detail/11838862/

高崎市、市156施設でのポケモンGO禁止  :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFB04H7G_U6A800C1L60000/

また、「Pokémon GO」は観光客を呼び寄せる仕掛けにはなっているものの、それ自体が経済効果になるかといえば疑問である、という指摘もあります。「Pokémon GO」のプレイでは滞在時間が短く、宿泊が伴うこともなく、地元の飲食店やお土産にお金を使うかどうかは不確かであるといったことから経済効果は薄いのではないかというものです。

「ポケモンGO、地方は「ただただ迷惑」…人増えても「金落とさず」、混乱対策のコスト増 – ネタりか 」
http://netallica.yahoo.co.jp/news/20160806-07046252-bjournala

「Pokémon GO」の禁止を望む人もいれば、それを使って観光に活かそうという人もいます。「Pokémon GO」の本質はゲームアプリであり、地域の活性化に活かすためには各地域においてどう活用するのかそれぞれ独自に考えていく必要がありそうです。