沿線地域に密着して多角化していく地方豪族としての大手私鉄グループ

Photo credit: yagi-s via Foter.com / CC BY

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経済や雇用など、その地域に住む住民の生活を支えてきた地方豪族企業の中には、鉄道などの交通インフラを整備していたものも少なくありません。

例えば、すでに地方豪族企業リストに加えている両備グループは、1910年に岡山市で西大寺鐵道(現在は廃止)として創立され、地域に密着しながらICT部門や住宅、物流をはじめ様々に事業分野を拡大させて地方の発展を担ってきました。

また、麻生グループも、1872年に石炭採掘事業を始め、1896年に嘉穂銀行を創立したのち、1897年に九州鉄道株式会社(現在はJR鹿児島本線の一部)を創立しています。

今回は、「大手私鉄」と呼ばれている鉄道会社15社について、各グループがどのように事業内容を多角化させているかについて紹介します。

なお、ここでの「大手私鉄」とは、一般社団法人日本民営鉄道協会がさだめる定義によります。この定義については、この法人のウェブサイトによると「大手と中小の明確な基準は無いものの、経営規模が大きく、4つの大都市とその周辺の通勤・通学輸送を分担しているという共通点がある」と書かれています。また、通常、大手私鉄は、東武、西武、京成、京王、小田急、東急、京急、東京メトロ、相鉄、名鉄、近鉄、南海、京阪、阪急、阪神、西鉄の16社を指しますが、阪神と阪急については、経営母体が統合されているため地方豪族の議論ではこれらをまとめて1社として扱うこととしました。

これらの大手私鉄は、鉄道をはじめとした交通事業以外にも、不動産や流通、人材派遣など、その沿線地域において雇用や経済を幅広い分野で担っており、まさに地方豪族企業の要件を満たすものとなっています。

Photo credit: Matt Watts via Foter.com / CC BY-SA

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多くの鉄道会社のグループは、電車による運輸事業を柱として、関連するバスやタクシー、パーキングエリアの事業を行います。鉄道車両整備事業(京成、京王、小田急等)も行う会社もあります。これらは運輸事業そのものや、運輸事業に直接関連する事業と言えます。

そして、路線沿線の需要を喚起させるために旅行・レジャー事業や建設業、不動産業(以上各社)、ホテル業(東武、東急、小田急、西武、相鉄、名鉄、近鉄)に進出します。駅ビルでは百貨店を開き、そこで販売をする流通業も行います。自社グループ内での買い物を喚起するために、クレジットカード事業を行う会社もあります(各社)。これらは交通事業そのものではありませんが、沿線周辺の価値を高め、運輸事業をより発展させるという意味で関連性があります。

グループ内に様々な建物が建ち、またいろいろな分野で働く人が出てくるようになると、ビル管理事業(京王、京急、小田急、相鉄、名鉄、近鉄)やグループ内で働く人を集める人材派遣事業(京王、小田急、相鉄、名鉄)をグループ内で行うようになります。また、グループ内で必要となるソフトウェアやウェブサービスを開発するためにソフトウェア開発事業などの情報処理業(京王、京急、小田急、名鉄、近鉄、南海、阪神)を行う会社もあります。グループ内に企業が増えてくると、経理も事業として行うようになります(京王、小田急等)。そして、旅行・レジャー事業や、百貨店、不動産業などにおいて広告を打つ必要が出てくるので、広告事業(東武、名鉄、近鉄等)もグループ内で行うようになります。グループ内で人材派遣や広告事業を行うことで、より効率的に業務が進むと考えられます。

Photo credit: bryan... via Foter.com / CC BY-SA

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また、鉄道とは遠い事業に見えますが、複数の企業が保険代理業(京成、西武、相鉄、名鉄、近鉄)、葬儀事業(京王、西武)、自動車学校(京成、京急、西武、名鉄、近鉄)をはじめとした学校事業(名鉄:カルチャースクール、高等学校、幼稚園)を行っています。会社によっては野球チーム(阪神、西武)を運営するところもあります。

各グループの実際の進出分野について詳しくは、地方豪族リストをご覧ください。

Photo credit: halfrain via Foter.com / CC BY-SA

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他の多くの地方豪族企業とは異なる特徴として、これらの鉄道会社は創業時に複数の発起人が存在し、かつ初代社長は彼らと別の人が務めるなど特有の事情があります。

鉄道会社によって細かな進出分野に差異はありますが、全体的に似たような傾向がみられるのは興味深いところです。