「知的自前主義でなければ地方創生はできない」(GLOCOMオピニオンペーパー)が公開

GLOCOMのOPINION PAPERで、「知的自前主義でなければ地方創生はできない」という記事が公開されました。執筆者は地域SNS研究会事務局の庄司昌彦(国際大学GLOCOM主任研究員・准教授)です。

今回のOPINION PAPERでは、移住促進の先進地である島根県海士町などの事例を紹介し、知的自前主義によりニッチな仕事とニッチな「ウェルビーイング」を備えた小さな知的クラスターを作ることが、地方創生の実現につながると主張しています。以下、内容を紹介します。

このオピニオンペーパーの問題意識は、「地方創生」というテーマから始まっています。日本創生会議のいわゆる「増田レポート」による「地方消滅」論は、少子高齢化や人口減少が加速する地方の衰退や地域経営に関して議論を巻き起こしました。このような「地方創生」には、(1)地方そのものの衰退問題、(2)地方自治体の財政破綻問題、(3)国単位での少子化問題、の 3 つが混在して語られがちであると指摘されてきましたが、本論では(1)地方そのものの衰退問題に関して関与できる余地があるとしています。

続いて、官民の取り組みがある程度成功し、移住者の増加や人口減少の緩和、高齢化率の低下などが起こっている地域として島根県隠岐郡海土町と徳島県勝浦郡上勝町が紹介されています。島根県隠岐島前高等学校の教育や「島留学」、住民主導のまちづくり海土町は、長期的な人口の推移では減少幅が縮小し次第に横ばいに近い状態になっており、また人口の社会増減と自然増減に関しては、自然減が続くものの社会減は食い止められ、社会増の年もあるようになってきています。同様に、「葉っぱビジネス」やリサイクルなどで知られる徳島県上勝町も、2000~12年の間に6回「社会増」の年があり、一定の効果を生んでいるようです。このように「地域の衰退」といってもその速度は、その地域の社会経済や運営状況などによって異なっているといえます。

海士町の人口の社会・自然増減(人) 〈海士町ホームページのデータより筆者作成〉

海士町の人口の社会・自然増減(人)
〈海士町ホームページのデータより筆者作成〉

 

現在、地方創生の推進に関しては、政府から数千億規模の交付金が地方自治体に振り分けられています。しかし、補助金や交付金への依存が進むと、地域の創造性が奪われ、衰退を招くことにつながっていきます。では、上記の地域のように創造性を失わず、地域外から人を引き付けるためには何が必要となるのでしょうか。

これに関して本ペーパーでは、田中秀幸の議論から地域活性化における人々の「ウェルビーイング」向上の重要性を指摘しています。これは「仕事と報酬」等だけでなく、「生活の質」につながる「健康状態」「教育と技能」や「社会的つながり」「生活の安全」など幅広い主観的な要素で構成されています。また、地域の社会構造の運営に必要となるヒト・モノ・カネ・情報の資源は、基本的に個人のものであり、「自助」のその先に「共助」「公助」があるとします。つまり、他地域に依存しないためには「私(たち)のウェルビーイングのために、「私(たち)」の資源を使うという自前主義が求められるのです。

次に、IT産業などの仕事を確保しながら生活の質を求める方策について述べられています。ここでは、移住促進やサテライトオフィスの誘致などの取り組みが広がっているとされ、事例として徳島県神山町や和歌山県白浜町が挙げられています。筆者自身も新潟県南魚沼市の国際大学で、多国籍な学生と連携したマイクロな知識産業のクラスター作りに取り組んでいることも紹介されています。

一般的に、知識労働者は都市に集積する傾向が見られ、第三次産業従事者が大変である都市の人口はますます増大していくと考えられます。しかし、ITが社会の隅々に浸透することでニッチな仕事を生み出す可能性があり、また地方都市がニッチな仕事とニッチなウェルビーイングを提供することによって、数十人規模の知的クラスターを作ること可能性があることを指摘しています。具体例として、福島県会津若松市の会津大学を中心とするマイクロな知的クラスターに注目し、地域SNS、オープンデータ、ブロックチェーンなどを用いた地域通貨など、官民を超えた社会的なつながりの上で意思決定が行われる、実験的な取り組みが創発されているとしています。

最後に、上記のような知的自前主義が経済を回し、ウェルビーイングを高めることで、外部から人を惹きつける原動力となって地域創生が実現される可能性について示唆しています。

 

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